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東京地方裁判所 昭和23年(行)39号 判決 1948年12月28日

原告

並木傳三

被告

保谷町農地委員会

主文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

請求の趣旨

被告が昭和二十三年一月十四日附を以て別紙目録記載の土地につき定めた買收計画を取消す。

事実

原告は、請求の原因として、被告は、昭和二十三年一月十四日附を以て、原告所有に係る別紙目録記載の土地につき、自作農創設特別措置法第六條第一項第一号に基き買收計画を定めた。然しながら、右買收計画は、次の理由により違法である。

第一、本件土地は訴外比留間丹次郞において從來不法に占拠して、これを耕作していたものである。而も原告は、当時右訴外人を相手方として八王子区裁判所に対し和解の申立をなし、昭和二十一年六月十七日同廳昭和二十一年(イ)第七号土地明渡事件として、一、相手方は、申立人に対して東京都北多摩郡保谷町上保谷字立野千六十二番の一宅地七百四十八坪の内五百四十八坪を昭和二十二年四月一日限り明渡すこと。二、相手方は申立人に対し一箇月につき一坪金三十錢の割合により損害金を昭和二十一年四月一日以降右明渡に至る迄支拂うこと等の條項で和解が成立した。從つて本件土地は、昭和二十年十一月二十三日当時以降右訴外人において不法占拠していたものであり、少くとも右和解條項に示された明渡期限たる昭和二十二年四月一日以降の本件買收計画樹立の当時においては何等正当の権なく、これを占拠していたものであるから、本件土地は、小作地ではない。

第二、本件土地は、西武線西武駅前に位し公簿面上並びに現況とも宅地であつて、原告は、本件地上に家屋を建築すべく準備中である。

右の次第で、本件土地は、農地でもなく小作地でもないのに拘らず被告が本件土地につき自作農創設特別措置法第三條第一項第一号に基き前記買收計画を定めたのは違法であるから、その取消を求めるため、本訴請求に及んだと陳述し、被告主張の抗弁事実を否認する。縱令被告主張のように取消されたとしても元來訴訟で取消の対象となつている行政処分は訴訟の相手方の同意なく自由に取消し得ざるものである。(中略)と述べた。

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因たる事実中被告が原告所有の別紙目録記載の土地につき、昭和二十三年一月十四日附を以て買收計画を定めたことは認める。その余の事実は否認する。と陳述し、抗弁として、被告は昭和二十三年五月十二日、本件土地について定めた右買收計画を取消し同年八月一日より十日間その旨公告したので原告が本訴においてその取消を求める行政処分は既に存在しないから本訴は訴の利益を缺くものであると述べた。(立証省略)

理由

被告が昭和二十三年一月十四日附を以て本件土地につき、自作農創設特別措置法第三條第一項第一号により買收計画を定めたことは当事者間に爭のないところである。被告は昭和二十三年五月十二日右買收計画を取消したと主張するのでこの点を審按するに、被告代表者高橋作之助の訊問の結果により眞正に成立したものと認められる乙第一号証同第二号証の一、二並びに被告代表者高橋作之助の訊問の結果を綜合すれば、被告は、昭和二十三年五月十二日保谷町役場において、同農地委員会を開催し右委員会において前記買收計画を取消す旨の決議をなしついで同年八月一日より同月十日に至る間その旨正規の公告をしたことを認めるに足る。而して行政廳はたとい行政訴訟の対象となつている行政処分といえども任意に之を取消し得べきものと解すべきである。果して然らば右買收計画が有効に存続することを前提とする原告の本訴請求は爾余の点の判断を俟つまでもなく、失当として棄却するの外なく訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條に則り主文の通り判決する。

(目録省略)

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